建築業の与信管理とは?与信のプロセスを正しく理解して経営安定を目指そう!
2022.08.14
建築業にとって与信管理は、安定した経営を続ける為に非常に重要です。
なぜなら、工事請負・着手後から、代金の回収までに時間がかかる場合が多いからです。
その間に取引先の未払いが続いたり、もしも倒産してしまうと代金の回収が出来なくなり、自社の資金繰りが急激に悪化してしまいます。
この記事では、与信管理の目的やプロセス、限度額決定についてわかり易く説明します。
自社の取引において代金回収に関するリスクを軽減し、正しい与信管理で更なる経営の安定を目指している方はぜひ参考にしてください。
目次
建築業における与信管理とは?
建築業では工事の規模にもよりますが、初めに材料仕入にある程度の金額の支払いが発生します。
また人手不足による労務費も引き続き高騰しており、その労務費の現金支払いも自社に入金する前に発生する場合がほとんどです。
つまり物件引き渡し後、自社に入金がある前に、多額の支払が発生する傾向にあります。
そのため、毎回の工事において、立替資金の需要が高く、得意先の倒産や長期にわたる未払いが発生するとすぐに会社の経営が悪化してしまう恐れがあります。
取引先の資金難により、支払期日になっても代金を回収できず、焦げ付き債権となるリスクを避けるため、徹底した「与信管理」をおこない、日々の取引を進めることが重要です。
与信とは?
与信とは一言でいうと、『取引先に対し代金を受け取るまでの期間、信用を供与する』ことです。
企業の間の取引では、前受や商品引き渡しと同時に代金を受け取る方法は、効率的ではありません。
建築業でも日々の材料の仕入・機械のリース、施工業務が継続的に発生するためそのたびに現金が動く方法は非効率です。
企業間取引では、一定期間分の売買をまとめて精算する方法が取られています。
商品やサービスを提供しても、すぐに代金を受け取ることができないため、取引先に対し、代金後払いの信用を供与すること「与信取引」と言います。
建築業において与信管理が重要な理由
与信管理は、建築業にとって非常に重要です。
建築業界は、中小企業が占める割合が多く、取引先からの代金が未収が続くと途端に資金繰りが悪化してしまうからです。
例えば、得意先のA社から工事を請負ったとします。
施工に必要な資材をB社から仕入、労務先C社に施工依頼。
A社からの代金を回収できれば、問題なくB社とC社へ支払できます。
ところがA社から代金が回収できないと、B社とC社へ支払う資金を他から調達しなくてはなりません。
資金に余裕がある大企業では、問題ありませんが、すぐに資金調達できなければ、倒産してしまいます。
取引先からの代金が未回収になることは、絶対に避けなければなりません。
建築業として、工事を受注するだけではなく、工事代金を無事に全額回収することが安定した経営を続けるために必要なのです。
与信管理のプロセス
会社経営を安定させるための『正しい与信管理』。
ここでは、与信管理のプロセスを詳しく説明します。
代金未回収を避けるべく、新規や継続中の顧客について、取引先として今後の商売を続けるかどうかの判断をする際の参考にしてください。
商談開始
見積依頼や他社からの紹介など、取引を希望する顧客が現れると、最初に営業担当者や管理部門と連携し、商談を進めてもいい相手か調査を開始します。
情報収集
取引先について複数の方法で情報収集することが大切になります。
取引を急ぐあまり相手の示す情報のみを信じて、社内の審査を経ずに、材料の発注や工事に取り掛かることの無いようにしましょう。
情報収集には、いくつか方法があります。
調査会社
信用調査会社を利用し、企業データを購入する。
建設許可証や経審
500万以上の工事を請負う事が可能な『建設業許可』の申請書を確認する。
経審(経営事項審査)も財務諸表上成績「評点Y」を参考にできます。
参照:経営事項審査で工務店経営を有利に!概要やメリット、ポイントを解説
営業担当コメント
営業担当者が直接取引先を訪問したり、相手の担当者から会社の情報について入手した結果をまとめ、コメントを記載し分析する。
決算書
取引先について複数の情報を入手したら、まず最初に決算書の分析をします。
定量分析
貸借対照表や損益計算書について、売上高や当期純利益、自己資本比率などのデータを分析します。
特に直近1期だけでなく2期、3期前の決算書を入手すると良いでしょう。
- 過去からの推移を見て、経営状態が悪化していないか?
- 同業他社と比較し経営状況は安定しているか?
適切な決算書の分析が重要です。
定性分析
決算書の数字では、わからない取引先の状況を判断するために、主に次の情報を分析します。
- 経営姿勢
- 経営者資産状況
- 労使関係
経営者の積極性や信頼性・能力を見極めることで決算書では見えてこない取引先の状況を知ることが出来ます。
業績が安定しているように見えても、社員の早期退職が多かったり、後継者の育成がうまくいっていないようでは、長期的にみて取引をするには注意が必要な会社と言えるでしょう。
商流分析
取引先の先にいるエンドユーザーや関係のある企業を調査すること、つまり商流の分析も重要です。
- 取引先の関係ある企業が、今後トラブルの原因になりそうな点は無いか?
- あるいは今まで関係のあった企業から取引先が関係を切られてはいないか?
⇒業績悪化で取引してもらえなくなった可能性あり - 取引先の支払条件や取引している銀行の調査⇒企業の信用や業績を確認
信用力評価
複数集めた情報を分析し、取引開始か?継続するのにふさわしい企業かどうか?取引先の信用力を評価します。
- 営業担当者は営業成績に関係するため、取引先を増やし、自分の成績アップを図りたい
⇒評価が甘くなる - 経理部門は、決算書の数字を意識し、社内規定を順守
⇒評価が厳しい
経営者にとって、取引先の情報をいくら集めても信用力の評価は判断するのが難しいでしょう。
あくまでも重要な点は、取引先の支払い能力=倒産の可能性があるかどうかであり、今一度社内での基準を明確にしてみてはいかがでしょうか?
与信限度決済
取引を開始することが決まれば、次は与信限度『取引先ごとに設定する売掛金の上限額』を決定することになります。
つまり、売掛残も含め『これ以上掛売は出来ない』という限界点のことです。
経営者が最終決裁者であり、取引における責任者となる場合がほとんどですが、営業担当者に対しても、与信限度額の順守を徹底しましょう。
契約条件交渉
取引開始の決済が下りたら、営業担当者は与信限度決済の内容に沿って、相手先と契約条件について交渉をおこないます。
例えば、初回のみ現金前払い取引にするなど、各取引先に合わせた交渉をすすめましょう。
与信限度決済ルール
与信限度決済について社内でルール化をすすめましょう。
―与信限度申請の例-
与信限度額の決め方
与信限度額は、取引先の財務状況で決定します。
今後更なる取引を増やしたい相手には、限度額を高く設定します。
反対に財務状況の悪い相手に対しては限度額を低く、回収サイトも短く設定し、売掛残をなるべく少なくしましょう。
与信限度額算出方法
与信限度額をいくらに設定するかはいくつか方法があります。
その一例として、『月間売上見込み額』と『回収サイト』に着目した方法を説明します。
(月間売上見込み額✖売掛期間月数)+(月間売上見込み額✖手形期間月数)で決定します。
「月末締翌月末振出、振出日起算60日後手形」の場合
回収サイトは売掛期間2ヶ月で手形期間が2ヶ月の合計4か月です。
月間売上見込み額が300万円とすると、「300万✖4か月=1,200万円」となり、多少の増減を考慮して、1500万~2,000万円で設定となります。
その他にも自社の財務内容や取引先に対するシェアについても注意が必要です。
自社の体力を超えた高額の取引は、非常に危険であり、特定の得意先のシェアが高すぎると、もしもの際に撤退しにくくなってしまいます。
常に収益を得る機会と倒産のリスクを負わない安全な範囲内とのバランスを取って設定することが大切です。
与信限度額の見直し
与信限度額は、定期的な見直しが必要です。
特に動向に注意が必要な取引先や何度も取引をしている重要顧客については年に数回程度、見直しすると良いでしょう。
営業担当者からの取引限度額の増額の申し出があった際や、逆に支払の遅延が発生した場合など、臨機応変に与信限度額を見直ししましょう。
まとめ
与信管理の目的やプロセス、限度額決定についての紹介でした。
建設業にとって、安定した企業経営をすすめるには、与信管理は非常に重要です。
売上増加を目指しつつ、取引先の倒産や未払いによる売掛金の未回収で会社の資金繰りが悪化することの無いように社員全員に対してもルールを徹底しましょう。
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