ライフサイクルコストとは?重要性と生涯コストを低減させるコツ
2022.05.02
省エネ化が進む昨今、ライフサイクルコストが低い建物の需要が高まっています。
エコなだけでなく、顧客にとってもコスト削減となるためです。
- 「本当にニーズがあるのかピンとこない」
- 「どうすればライフサイクルコストを低減できるのかわからない……」
という工務店経営者や営業の方も多いのではないでしょうか。
本記事ではライフサイクルコストを削減する重要性と、具体的な削減方法について解説しています。
ぜひ参考にして、ライフサイクルコストが低い建物を提供できる工務店を目指してください。
目次
ライフサイクルコストとは
ライフサイクルコスト(Life cycle cost)とは、商品やサービス、あるいは建物や橋、トンネルなどの構造物が出来てから、その役目を終えるまでにかかる費用のことです。
LCCと略されたり、生涯費用、生涯コストと呼ばれたりします。
建築分野で用いられるライフサイクルコストは、企画や設計段階から建設、運用、修繕、最終的に解体されるまでのライフサイクルに必要なコストを合計したものです。
引用元:国土交通省 官庁施設の保全
ライフサイクルコストを構成する3つのコスト
ライフサイクルコストは、3つの要素で構成されています。
- イニシャルコスト
- ランニングコスト
- メンテナンスコスト
下図は、ライフサイクルコストの概念図を示しています。
出典:(一財)建築保全センター「平成31年版 建築物のライフサイクルコスト」
海に浮かぶ氷山全体がライフサイクルコストで、海上に見える建設コストがイニシャルコストです。
ランニングコストは、保全コスト(維持管理)と運用コスト(光熱費)及び解体処分コストの合計。
残りの保全コスト(修繕費・改善)がメンテナンスコストに該当します。
上図をみると明らかですが、イニシャルコストは氷山の一角で、ライフサイクルコストの大半を占めているのはランニングコストです。
そのため、ライフサイクルコストの削減には、ランニングコストを低減することが効果的になります。
イニシャルコスト
イニシャルコストとは初期投資のことで、建築においては、建設費用(イニシャルコスト)を指します。
家を建てる場合、顧客はどうしても高額な建設費用に目が行きがちです。
しかし、建築後も長期にわたって住み続けるため、耐久性のある工法や建材、部材選びに目を配ることが重要になります。
なぜなら、選んだ工法や部材によって、耐久性に大きく影響を及ぼすからです。
建築費用(イニシャルコスト)だけを気にして住まいを作ってしまうと、住み始めてから想像以上にランニングコストやメンテナンスコストがかかってしまうことも……。
前述のように、ライフサイクルコストにおいて、イニシャルコストの占める割合はわずかです。
そのため、ライフサイクルコストの低減を目的にイニシャルコストの削減に努めても、効果的とは言えません。
ランニングコスト
ランニングコストとは、建物を解体するまでにかかる運用費や光熱費、管理費などを全て足したコストになります。
一度に支払う金額が建設費用と比べて少ないため、ランニングコストをあまり気にしない顧客も存在しますが、それは間違いです。
建物の寿命を考えると、ランニングコストの総合計は、イニシャルコストを遥かに上回ります。
例えば、安い建築費用で住宅を建てられたとしても、断熱や気密性能の低い建物であれば、光熱費などのランニングコストが高くつき、余計にお金がかかってしまうのです。
そのため、ライフサイクルコストを削減するためには、イニシャルコストだけでなく、ランニングコストの削減が必要になります。
ライフサイクルコストや顧客のライフプランを十分に検討して、コストパフォーマンスの高い高断熱・高気密住宅を提案できれば、顧客からの信頼も勝ち取れるでしょう。
メンテナンスコスト
メンテナンスコストは、修繕や改善などの保全コストのことで、外壁や屋根の修繕、内外装の清掃、住宅設備の点検、管理、改修などがメンテナンスコストに該当します。
そのため、長期間に及ぶメンテナンスコストを想定した家づくりを提案する必要があります。
長く安心して快適に暮らすためには、ただ家を建てるだけでなく、住み始めてからかかる費用を考慮しなければいけません。
メンテナンスコストは一般的に35年間で想定され、築年数が経過すればするほどメンテナンスに費用がかかります。
メンテナンスは建物の劣化や老朽化によるもので、ランニングコストのように予測がつかないため、想定外の大きな出費となる場合がほとんどです。
ライフサイクルコストの重要性
資産価値を正しく測り、必要に応じて設備を投資するには、ライフサイクルコストの試算が重要です。
また、建築物の資産価値を維持管理していくためにも、ライフサイクルコストは重要になります。
中長期的なコストを試算する
前述のように、ライフサイクルコストの大半を占めるのは、ランニングコストです。
一般的なオフィスビルの場合、建設費用よりも実際に使い始めてからかかる費用の方が、4倍近く増加すると試算されています。
だからといって、建設するための企画や設計、施工といった工程をおろそかにしてはいけません。
省エネを実現するための設計や設備を十分考慮し、ムダを削減するためのメンテナンス計画をじっくり検討する必要があります。
中長期的なコストを試算して、企画提案の段階から、設計、施工すべての段階において高品質な商品やサービスを提供するために努力しましょう。
引き渡し後も、時代の変化に沿った仕様変更や機能向上を提案するなど、顧客が保有する資産価値を向上させるためのサポートが大切です。
コストを最適化する
定期的なメンテナンスを実施することで、建築物のライフサイクルコストを最適化できます。
ライフサイクルコストの観点から、長期的なメンテナンス計画を作成し、建物の資産価値の向上や維持管理を図る企業や建築物所有者が増えています。
メンテナンス計画による適切な改修工事で、
- 電気設備の省エネ化
- 使わない照明設備を削減
- 空調の効率化
- 耐久性のある建材に変更
などを実施できれば、建築物のライフサイクルコストのうち、光熱費や修繕費、保守費、更新費を低減することが可能です。
上記メンテナンスだけでも、ライフサイクルコストを低減でき、ムダなコストを抑えられるだけでなく、建築物の資産価値を長期的に維持できます。
ライフサイクルコストの誤差
建築物のライフサイクルコストを検討する際には、建築物や企業経営を取り巻く社会や環境は変化していくことに注意しましょう。
一般的に建築物の寿命は60年といわれますが、使用する期間が長期間になるほどライフサイクルコストの試算には誤差が生まれます。
例えば、経済環境の変化による外的要因。
または、設計ミスによるメンテナンスコストの増大や、使用頻度や期間の見込み違いによる減価償却期間のズレなど、内的要因からもコストの誤差が生じます。
想定外のコスト発生を防ぐことは容易ではありません。
そのため、企画や設計段階で将来的に起きる可能性のある、誤差を考慮した柔軟な計画立案が重要です。
ライフサイクルコストが変化する具体例
ライフサイクルコストは前述のように、外的要因や社会環境などの影響を受けて、大きく変化します。
そのため、事前に見積していても、建物を長期間使えば使うほどコストに誤差が生じるのです。
この項では、ライフサイクルコストが変化する具体例として、
- 建物や設備の経年劣化
- 価格高騰などの外的要因
- 資産価値の向上
の3つを解説します。
建物や設備の経年劣化
建物や設備は、自然風化や機器の寿命、経年劣化などにより老朽化していきます。
老朽化の進行によって、メンテナンスコストや保全コストも変わることから、建物や設備の経年劣化はライフサイクルコストを大きく変化させる要因のひとつです。
また、急な自然災害や設計ミスによって保全コストが増加したり、想定外の劣化や故障で設備交換費や修繕費がかかったりすることも考えられます。
定期的なメンテナンス計画を費用削減のために中止した結果、思わぬところで費用がかさむことも十分あり得ることです。
なお法律上、建物や設備には耐用年数が定められています。
しかし、あくまでも減価償却するための目安であって、その時期よりも早く故障や破損する可能性を想定しておかなければいけません。
価格高騰など外的要因
ライフサイクルコストは、価格高騰や時代の潮流など、外的要因によっても変化します。
例えば、以下のような要因です。
- 燃料価格の高騰で光熱費が増加
- 建築請負費用や材料費の変動
- 土地価格の変動による資産価値の変化
- 時代の潮流による建物構造やデザインの変化
- 税法改正
- 建物の安全基準
- バリアフリー
価格高騰やトレンドの変化は、いくら事前計画を練ったとしても、また建築技術をもってしても予想することは困難です。
資産価値の向上
建物の資産価値を高めて、売却額や運用益を増やす手法もライフサイクルコストを変化させる要因です。
資産価値を向上させるには、その建物の付加価値を生むような改修工事や設備導入をする必要があります。
具体例としては、次の通りです。
- バリアフリー住宅
- トレンドデザインの外観に変更
- 最新技術が搭載された設備を導入
- 省エネや脱炭素など環境へ配慮
建物の資産価値を高めて、収益を得れば今までかかってきた費用をカバーできるメリットがあります。
ただし、設備導入や運用維持コストについては、他の出費とのバランスを調整して実施しなければ、かえって損をしてしまう可能性もあるため注意が必要です。
ライフサイクルコストを低減する手法
ライフサイクルコストを低減する手法として、以下の手段が挙げられます。
- 耐久性に優れ、長寿命の材料を使用
- エネルギーを節約できる設備の導入
- クリーンエネルギーを使用
- 可能な限り特殊な設計をしない
方法によっては、イニシャルコストがかかってしまう場合も……。
しかし、長期的な視点から見ると、ランニングコストの削減を優先した方が、結果的に支出を抑えられます。
この点を顧客に納得してもらった上で設計を勧めるのが、工務店として腕の見せ所です。
長寿命で高耐久の材料や機器を使用
建築を構成する材料に、長寿命で高耐久の建材を使用することで、修繕回数を削減できます。
耐久性が低い材料は劣化も早く、交換や修繕回数が増えるためランニングコストがかさんでいきます。
工務店側は、「修繕回数が多いと売上につながる」という見方もできるかもしれません。
しかし、度重なる修繕は不要なトラブルを招き、何より工務店に対して不信感を与える原因になってしまいます。
無用な工事を減らすことは、工務店のメリットにもなるのです。
エネルギーの節約を工夫
節電や節水などエネルギーの節約で、建物の維持費を抑えられランニングコストが削減できます。
例えば、人感センサー付きの照明や自動水洗などが挙げられます。
エアコンの効果を最大限に生かすため、断熱性を向上させるのも手段のひとつです。
しかし、こういった設備は、イニシャルコストがかかります。
そのため、
- 「お金をかけたくない」
- 「そんな上等な設備は要らない」
と断ってくる顧客も少なくありません。
そのような時は、特に複雑な設備ではないことや、このような設備がどんどん一般的になっていることを顧客に伝えると、納得を得やすくなります。
クリーンエネルギーを使用
クリーンエネルギーを使い、建物の運用に必要なエネルギーを自ら作り出すのも、ランニングコスト削減に効果があります。
太陽光を利用するソーラーパネルが代表例であり、きちんと運用できればランニングコストを大きく削減可能です。
ただし、クリーンエネルギーの利用には、専用設備を導入するためイニシャルコストがかかります。
設備のためのスペースも必要ですし、顧客側に運用する意志がない場合、あまり効果的な手段とは言えません。
すべてのケースで勧められる方法ではないため、物件ごとに環境を見極めることが肝心です。
シンプルな設計
特殊な設計、特殊な施工は、ランニングコストが高くなる原因のひとつです。
材料が入手困難な特別なものであったり、設計条件が複雑であったりすると、修繕や管理する際のトラブル原因になります。
無用なトラブルは無用な工事を生み出して、ランニングコストをさらに増大させることになりかねません。
複雑な工事は、施工する側にとってもデメリットです。
できる限りシンプルで、修繕や管理しやすい設計を心がけましょう。
まとめ
本記事では、ライフサイクルコストの概要や重要性、生涯コストを低減させるコツについて解説しました。
建築物のライフサイクルコストは、これから先、ますます無視できない問題となっていくでしょう。
国も省エネ法の施行など、建設業と省エネルギーの関係について着目しています。
理解と知識を深めて、「ライフサイクルコストを削減したいのですが」と尋ねられたときに、自信を持って「はい、出来ます!」と言える工務店を目指しましょう。
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