経営力向上計画とは?制度の仕組みやメリット、注意点について解説
2023.01.30
新型コロナウイルスの感染拡大による社会や経済の低迷、営業自粛など多くの企業では厳しい経営環境を強いられてきました。
経営支援のため政府では、雇用調整助成金や持続化給付金など経済回復を目的とするさまざまな支援を実施しています。
経営力向上計画もそのひとつで、経営に関して大きな支援が受けられる制度ですが、あまり知られていません。
本記事では認知度の低い経営力向上計画について制度の仕組みやメリット、申請の流れ、注意点について解説しています。
経営向上を目指す事業者の方はぜひ参考にしてください。
経営力向上とは
経営力向上とは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などの経営資源を余すところなく事業活動において、効果的に利用することです。
経営資源の具体的な内容は、次の5点です。
- 事業活動に役立つ知識や技能のある人材育成
- 財務状況の分析結果を活用
- 商品やサービスの需要動向に関する情報を活用
- 経営効率向上のためデジタル技術を活用
- 経営資源の組み合わせなど
経営力向上は上記の経営資源を企業において使い尽くし、生産性向上を図ります。
経営力向上計画とは
経営力向上計画とは中小企業の経営力を向上させる目的で、平成28年7月から開始した国の制度で、「中小企業等経営強化法」という法律に基づいて策定されます。
中小企業などが経営力向上を目的とした人材育成や設備投資、コスト管理にどう取り組むかを記載した事業計画が経営力向上計画です。
下記は経営力向上計画の大まかな概要になります。
引用元:中小企業庁「経営力向上計画策定の手引き」
経営力向上計画を策定した中小企業は、事業分野ごとに所管の省庁へ申請します。
計画書が認定されると税金や金融・法的支援などの優遇措置が適用されます。
経営力向上計画の認定状況
中小企業庁の資料によると、令和4年10月31日現在で148,153件の企業が経営力向上計画の認定を受けています。
下記は認定事業者の内訳です。
引用元:中小企業庁「経営力向上計画の認定について【中小企業等経営強化法】」
製造業に次いで2番目に多い建設業では38,490件が経営力向上計画を認定済みです。
経営力向上計画の申請対象
経営力向上計画の申請対象は、常時使用する従業員数が2,000人以下の個人事業主や医療法人などを含む「特定事業者等」です。
特定事業者等の内訳は以下を参照してください。
引用元:中小企業庁「経営力向上計画 制度のご紹介」
上記の申請対象は認定を受けるための条件であって、税金などの優遇措置を受けるためには別途条件が設定されています。
経営力向上計画の認定で得られるメリット
経営力向上計画が認定されると、計画実行を後押しする次の支援措置が受けられます。
- 税制優遇措置の適用
- 金融支援が受けられる
- 法的支援が受けられる
項目ごとに解説します。
税制優遇措置の適用
経営力向上計画に認定されると次の税制措置が適用されます。
- 設備の取得にかかわる税制措置
- 事業承継等にかかわる登録免許税・不動産取得税の特例
経営力向上計画を実行する際に生じた税金負担を抑えられる税制優遇措置です。
設備の取得にかかわる税制措置
設備取得にかかる法人税や所得税を「即時償却」または「10%あるいは7%の税額控除」のいずれかを選んで適用できます。
税制措置の適用で、法人税と所得税の税金負担を軽減できるでしょう。
引用元:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
設備取得における税制措置を受けるには以下の条件が設定されています。
- 青色申告書を提出している
- 資本金または出資金額が1億円以下の法人
- 資本金または出資金を有しない法人で常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
また、経営力向上計画を実行するために取得する設備には種類があり、以下の条件が設定されています。
類型 | 条件 |
生産性向上設備
(A類型) |
生産性が年平均で1%以上向上する設備 |
収益力強化設備
(B類型) |
投資利益率5%以上のパッケージ投資 |
デジタル化設備
(C類型) |
遠隔操作・可視化・自動制御化を可能にする設備 |
経営資源集約化に資する設備
(D類型) |
修正ROA(総資産利益率)または有形固定資産回転率の改善が見込めるパッケージ投資 |
設備ごとにさらに細かく条件設定があります。
税制措置の適用には手続きが必要になるため、詳しくは以下の手引きを参照してください。
参考:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
事業承継等にかかわる登録免許税・不動産取得税の特例
建設業では経営者の高齢化や事業承継が大きな課題です。多くの中小企業でも同様に事業承継の準備が進んでいません。
そのため、事業承継のために取得した土地や建物にかかる登録免許税や不動産取得税を軽減できる支援措置が拡充されました。
引用元:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
具体的な税率は上の画像の通りで、通常よりも軽減された税率になっています。特例が受けられる資本金や従業員数などの条件は前述の設備取得と同じです。
また、特例の適用を受けるためには経営力向上計画を策定し、認定の取得が必須になるため、詳しくは以下の手引きを参照してください。
参考:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
金融支援が受けられる
経営力向上計画が認定されると税制措置に加えて、金融支援が受けられるメリットがあります。
金融支援の概要は次の通りです。
①日本政策金融公庫による低利融資 | 経営力向上計画に認定された事業者が行う設備投資に対して、資金の融資が受けられる支援 |
②中小企業信用保険法の特例 | 経営力向上計画を実行する目的で民間の金融機関から融資を受ける場合、信用保証協会の信用保証のうち、普通保険などとは別に追加の保証や保証枠の拡大が受けられる支援 |
③中小企業投資育成株式会社法の特例 | 経営力向上計画に認定された場合、通常の投資対象である資本金3億円以下の株式会社だけでなく、資本金が3億円を超える特定事業者も投資が受けられる支援 |
④日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット | 国内に親会社がある特定事業者の海外支店ないし海外子会社が日本公庫提携の海外金融機関で現地通貨建ての融資を受ける際に、日本公庫が信用状を発行し、海外でスムーズに資金調達が行える支援 |
⑤日本政策金融公庫による クロスボーダーローン | 国内に親会社がある特定事業者の海外子会社が経営力向上計画を行うために必要な設備資金や運転資金の融資を直接受けられる支援 |
⑥中小企業基盤整備機構による債務保証 | 特定事業者(従業員数2,000人以下)が経営力向上計画を行うために必要な資金に対して、債務保証(保証額最大25億円)が受けられる支援 |
⑦食品等流通合理化促進機構による債務保証 | 食品製造に関わる業者が経営力向上計画を行うために民間金融機関から受けた融資について信用保証が使えない、または巨額の資金調達を要する場合に債務保証が受けられる支援 |
建設業を含む中小企業が事業拡大をする場合に、通常とは別枠で金融支援が受けられます。
詳細については下記の手引きを参照、もしくは各申請期間の窓口に問い合わせてください。
引用元:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
法的支援が受けられる
経営力向上計画の実行に対して、合併や会社分割、事業譲渡、事業協同組合の設立などの事業承継を行う場合、法的支援が受けられます。
法的支援による特例の概要は次の通りです。
許認可承継の特例 | 経営力向上計画に事業承継が盛り込まれている場合、承継される事業者の許認可に関する地位を引き継ぐことができる特例 |
組合発起人数の特例 | 経営力向上計画に組合編成が盛り込まれている場合、通常4人必要な発起人が3人でも可となる特例 |
事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例 | 事業譲渡による債務移転について、債務者へ通知後1ヶ月以内に返事がなければ、債権者からの同意を得たものとし簡単な手続きで債務移転が行える特例 |
詳細については下記の手引きを参照してください。
参考:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き」
経営力向上計画を申請する流れ
経営力向上計画の認定を受ける流れは次の通りです。
- 該当する事業分野を確認
- 事業分野ごとの指針を確認
- 指針または基本方針を踏まえた計画の策定
- 事業分野に応じた主務大臣に提出
- 審査
- 経営力向上計画の実行
流れに沿って説明します。
1.該当する事業分野を確認
申請書に記載する必要があるため、自社事業がどの分野に該当するのか「日本標準産業分類」のサイトで検索します。
2.事業分野ごとの指針を確認
該当する事業分野の指針を確認します。
経営力向上計画はこの指針に沿って策定することが重要です。指針は以下のサイトで確認できます。
参考:中小企業庁「事業分野別指針及び基本方針」
参考:一般財団法人 建設業振興基金「中小企業等経営強化法」をご存じですか?
3.指針または基本方針を踏まえた計画の策定
指針や基本方針をもとに計画策定を行います。策定には電子申請が行える「経営力向上計画プラットフォーム」の利用がおすすめです。
電子申請のメリットは次の通りです。
- エラーチェックや自動計算などのサポート機能がある
- 郵送費用が不要
- 審査状況を確認できる
- 紙申請と比べて認定期間が早い
- 認定書をダウンロードできる
計画策定の際には以下の手引きを参考にしてください。
参考:中小企業庁「経営力向上計画策定の手引き」
4.事業分野に応じた主務大臣に提出
経営力向上計画の提出先は事業分野ごとに異なります。提出先が不明な場合は以下のサイトで確認してください。
5.審査
提出した計画について認定審査が行われます。認定を受けた場合、認定計画書および計画申請書の写しが郵送またはダウンロードで交付されます。
6.経営力向上計画の実行
経営力向上計画に基づいて実際に計画を実行します。
経営力向上計画を申請する注意点
経営力向上計画の申請する際に、注意したい点について解説します。
事前準備を怠らない
受ける支援や特例によっては、通常の申請書だけでなく事前準備が必要な場合があります。提出条件に抜け漏れがあれば、認定を受けられません。
例えば、設備投資について税制措置を受ける場合には、工業会などによる証明書あるいは経済産業省の証明書が必要です。
また、事業承継について支援を受ける場合には、基本合意書や誓約書、貸借対照表、損益計算書などの資料が別途必要になります。
認定に必要な条件の確認と記載内容に不備がないかなど、準備には時間をかけて取り組みましょう。
計画実施後の効果を記載する
経営力向上計画には計画実施後の効果を記載する項目があります。
記載する項目については事業分野によって異なるため、以下の事業分野別指針を参考にしてください。
参考:中小企業庁「事業分野別指針及び基本方針」
建設業の場合は実施項目として以下の「自社の強みを直接支える項目」と「持続的な成長に向けた長期的な取り組み」が定められています。
必要な項目数は事業規模によって違うため、注意してください。
引用元:一般財団法人 建設業振興基金「中小企業等経営強化法」をご存じですか?
認定後は計画を実行する
計画が認定されたら税制措置や優遇支援を受けながら、計画書に準じて取り組みを実行します。
計画を実行した結果、目標に満たなかった場合でも認定の取り消しはありませんが、経営力向上計画に関する事業が行われていなければ、認定取り消しの可能性があるため注意してください。
支援機関のサポートを受ける
経営力向上計画の作成に不安がある場合には、認定経営革新等支援機関に相談してみましょう。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業を支援する専門知識や実務経験を持つ、国が定める支援機関です。
具体的には税理士や公認会計士、中小企業診断士、商工会議所、金融機関などの専門家です。
計画策定をはじめ、認定後の取り組みまで全般的に支援してもらえます。
まとめ
本記事では経営力向上計画の仕組みやメリット、注意点について解説しました。
まだまだ認知度も低く、制度内容にも難しい点がありますが、認定を受けると税制措置や金融・法的支援が受けられるためメリットは大きいです。
これを機に事業内容や課題の洗い出しを行い、事業拡大や業績アップを目指した経営力向上計画の申請を検討してみてはいかがでしょうか。
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