入札優遇策を背景に建設業界で賃上げの動きが加速|賃上げ実施の方法とは?
2023.05.25
ユニクロを運営するファーストリテイリングが正社員の年収を最大で40%賃上げすると発表し、話題となっています。
建設業においても積極的な賃上げの動きが加速しているのをご存じでしょうか。
その背景にあるのは、公共事業の賃金引き上げや入札企業への加点、税制優遇などの要因です。
本記事では建設業界での賃上げ状況とその背景、賃上げを実施するメリットや建設業で賃上げを行う5つの方法について解説しています。
賃上げを検討している建設業者の方は参考にしてください。
目次
8割の企業で賃上げの動き
東京商工リサーチが実施した2023年度「賃上げに関するアンケート」の調査によると、80.6%の企業が賃上げを予定していることがわかりました。
2022年度に賃上げを実施した企業は82.5%、2年連続で80%台になり、コロナ以前と同水準になっています。
引用元:東京商工リサーチ2023年度「賃上げに関するアンケート」調査(第2回)
では、どのような形で賃上げを実施しているのでしょうか。賃上げの実施方法についての回答を紹介します。
- 定期昇給
- ベースアップ
- 賞与の増額
- 初任給の増額
- 再雇用者の給与を増額
定期昇給やベースアップは、中小企業よりも大企業の方が多く実施していることから、基本給に関連した賃上げは中小企業にとって大きな負担であることがわかります。
また、賃上げを実施しないと回答した企業の理由は、
- 原料代・電気代・燃料代の高騰
- 増員を優先するため
- コスト値上がり分の価格転嫁ができていない
- 先行きが不安
- 設備投資を優先したい
という回答でした。
建設業界では資材高騰や人手不足など目の前にある課題が山積みです。
賃上げに踏み込む余裕がないなど、今後の賃上げ実施率向上が期待されます。
主要国の平均賃金|日本はほぼ横ばい
国内で賃金が伸び悩む状況は、ここ数年の問題ではありません。
過去30年間、日本の賃金はほぼ横ばいで上がっておらず、初任給も30年前と変わらない水準です。
日本の初任給が20万円と伸び悩むなか、アメリカでは50万円を超えることも。
引用元:NHK「安いニッポン! 賃金はどうすればあがるのか?」
上記はOECD(経済協力開発機構)が主要国の平均賃金推移を示したデータです。
データを見ると、アメリカでは30年間で1.5倍に、韓国では倍に賃金が増えています。
なぜ、日本では賃金が伸びないのでしょうか。
主要国の中でも突出して低い水準を保っています。
日本の賃金が安い理由として、
- 終身雇用制度
- IT化の遅れなど企業の生産性が向上していない
- 低賃金により個人消費が停滞する悪循環
などが考えられます。
しかし、日本の労働者は海外と比べて生産性が低いのでしょうか、技術が劣っているのでしょうか。
賃上げを行うための構造的な改革が求められています。
建設業界での賃上げ状況とその背景
日経コンストラクションが大手建設会社20社に対して、賃上げ状況のアンケートを実施した結果、2022年度は定期昇給に加えて10社がベースアップを実行したことがわかりました。
また、建設業界大手の清水建設や鹿島建設、大林組、大成建設も3%以上の賃上げや企業によっては初任給引き上げを公表しています。
今後は大手ゼネコンだけでなく中小建設業者にも、賃上げの流れは波及していくでしょう。
建設業界が賃上げに踏み込む背景には、国土交通省による公共事業の賃金引き上げや賃上げ企業への加点、税制優遇などの処遇があります。
公共事業の賃金引き上げ
国土交通省は2022年度に行った公共事業の労務費調査から、2023年3月より公共工事の労務単価を全国平均で5.2%引き上げる旨を発表しました。
引用元:国土交通省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
全職種の平均額は22,227円となり伸び率は9年ぶりに5%以上、単価は11年連続して上昇しています。
引用元:国土交通省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
建設業界では従業員の高齢化や慢性的な人手不足など、大きな課題を抱えています。
その要因となるのは、
- 低賃金(全産業平均より約100万円低い水準)
- 長時間労働(全国平均より約340時間長い)
- 休日が少ない(週休2日制は50%以下)
- 仕事がきつい
- 汚い
といった労働環境の厳しさです。
適正な賃金とライフワークバランスの実現、働きやすい職場環境など、労働環境を改善して若年者や女性が入職しやすい建設業界への転換が求められます。
賃上げ企業には加点
国土交通省は公共事業に入札する際に、賃上げを実施した建設業者に対して加点を与える優遇措置を導入しました。
引用元:国土交通省「総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置」
加点される条件は従業員への賃上げ目標値です。
- 大企業(3%以上の賃上げ目標)
- 中小企業(1.5%以上の賃上げ目標)
前述のように大手ゼネコンは3%以上の賃上げを発表しています。
加点を受けるためには従業員への賃上げを示した「表明書」の提出が必須。
また、加点を受けた場合は決算書を調査されて、目標の達成具合を確認されます。
もし、目標が達成できていなければ、今後の入札において加点割合が大きく減点されるため注意が必要です。
逆に公共事業を受注しない(入札しない)建設業者は、賃上げが実施されずに人材が流出してしまう可能性があるため、何らかの対応措置を講じなければいけないでしょう。
賃上げ企業には税制優遇
賃上げ促進税制は中小企業が前年よりも給与を増額した場合、増額した一部を法人税から控除できる制度です。
中小企業にとって魅力的な税制優遇であり、2022年4月1日から2024年3月31日までの期間に開始される事業年度が対象になります。
制度の適用要件と税額控除率は次の通りです。
引用元:経済産業省「中小企業向け賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」
この税制優遇が適用されると、従業員の賃上げを実施しても控除分の負担が軽減されるため、急激なコスト増が抑えられるでしょう。
また、賃上げ促進税制は教育訓練に関しても対象となるため、社員教育の場を設ければ従業員の人材育成に活用できます。
公共事業を受注しない企業でも賃上げが必要な理由
公共事業に入札する企業への優遇策について解説しましたが、入札に参加しなくても賃上げ実施には多くのメリットがあります。
人材の流出や離職を防ぎ、新規担い手の確保など賃上げを行う意義は多大です。
自社の経営対策にもなるため、前向きに検討する必要があるでしょう。
人材流出・離職防止
賃金の改定状況を調査した下記グラフによると、建設業で賃上げを実施または予定している企業は95.4%、全産業の85.7%と比べて高い状況になっています。
また、賃上げを実施する理由として「労働力の確保・定着」や「雇用の維持」を挙げる企業が多くありました。
他社よりも給与水準が低いと新しい労働力の確保が難しいと考えていることが見て取れます。
従業員側は自分の賃金の額が他社と比較して少なければ、離職してしまう可能性もあるでしょう。
戦力となる人材が他社へ流出してしまえば、人手不足が課題の建設業にとって大きな痛手です。
そのためにも積極的に賃上げを行って、人材流出を防止し社員のモチベーションを向上させることが大切になってきます。
優秀な人材を確保
積極的に賃上げを実施すれば、新たな担い手を確保でき優秀な人材の採用が可能です。
また、処遇に魅力があれば経験豊富でスキルの高い人材を雇用できるかもしれません。
給与体系を見直さなければ希望が持てず、離職者も増えて人材確保も困難になるでしょう。
従業員一人ひとりの経験値やスキルを適正に評価して処遇を改善し、労働力の確保と定着、雇用維持を行うことは、企業が存続していくためにも重要な課題です。
建設業で賃上げを実施するには
建設業で賃上げを行うための具体的な方法は以下の5つです。
- 業務の効率化
- 受注金額の再検討
- 発注価格の見直し
- コストの見直し
- 建設DXへの取り組み
単純に賃上げをすれば良いというのではなく、企業側に利益が伴わなければ意味がありません。
建設業で賃上げを行う際のポイントと方法について解説します。
業務の効率化
業務の効率化は作業におけるムリ・ムダ・ムラを省いて、コスト削減や従業員のモチベーションアップ、生産性向上などを図ることです。
業務効率化が実現すれば無理なく賃上げを実施できるでしょう。
業務効率化を進める方法は次のような流れです。
- 業務を洗い出して課題を明確にする
- 改善する課題の優先順位を決める
- 改善する方法を考える
- 改善による効果を検証する
- この手順を繰り返して習慣づける
上記手順のほかに、建設業に特化した業務効率化システムの導入もおすすめです。
業務効率化システムには、
- 顧客管理
- 資金管理
- 施工管理
- 原価管理
- 見積もり作成
などの機能があり、業務を効率的に行えるため業務上のムダを省けます。
業務効率化が実現すれば、労働環境を改善しながら業務負担の軽減や人件費削減などの効果が期待できるでしょう。
私の場合、業務を円滑に進めるため、工程表を先読みして、次の作業を想定しながら発注や作業段取りを行っていました。
作業の流れを汲んでおけば、時間配分を考えながら段取りよく業務をこなせるため、作業時間が短縮し余裕を持って業務につけました。
また、並行してできる作業があれば、同時進行で行うなども業務を効率よく行ううえで有効的です。
受注金額の再検討
賃上げを実行しても利益が得られなければ、企業存続はできません。
利益を生むためには、受注金額の見直しが必要です。
安易な値引きを行わず、適正価格での受注を心がけましょう。
また、昨今では以下に挙げる要因により建築資材が高騰しているため、受注金額の見直しは最優先の課題です。
- ウッドショックやアイアンショック
- 人手不足
- 円安
- ウクライナ危機
高騰した値上がり分をうまく価格転嫁できなければ、利益を切り詰めて受注しなければいけません。
経営状況を把握して、ときには取引先に値上げをお願いするなど、利益を確保する手立てを講じて、賃上げを行っても負担にならないように受注金額を再検討しましょう。
発注価格の見直し
前述した通り、建築資材の価格は高騰しており建設業者にとって大きな負担となっています。
賃上げを実行して赤字とならないためには、建築資材の発注価格の見直しが大切です。
発注する際には、過去の単価や似通った現場の単価を再確認して、適正価格を把握しておきましょう。
ただし、品質を落として発注価格を下げることは、工事の不具合や欠陥につながるため注意が必要です。
コストの見直し
賃上げを実施する前には、不要なコストの見直しや改善を行いましょう。
具体的には次のような経費です。
- コピー用紙
- インク代
- 読まない本や新聞
- 水道代や電気代などの光熱費
- 不使用のツール
- 保険関係
上記のようなコストの見直しや改善を行えば、賃上げの資金源となります。
また、労働環境や職場環境を改善して残業や休日出勤など、不要なコストの削減も重要です。
働き方改革を行えば、従業員の負担を軽減できモチベーションアップにもつながります。
建設DXへの取り組み
業務効率化や働き方改革を行うためには、建設DXの導入がおすすめです。
建設DXとは建設業の現場や事務業務にデジタル技術を導入して、業務フローの改善や作業効率を向上させる手法です。
建設DXを導入すれば、次のようなメリットが得られます。
- 業務効率化の実現
- 省人化・省力化
- 技術承継がしやすくなる
- 作業の安全性確保
- 他社との差別化
人材確保が難しい建設業にとって、省人化や作業時間の短縮は大きな魅力です。
建設DX導入にはコストがかかりますが、補助金を利用すれば初期コストが抑えられるでしょう。
まとめ
本記事では建設業界での賃上げ状況とその背景、賃上げを実施するメリットや建設業で賃上げを行う5つの方法について解説しました。
大手ゼネコンでは賃上げを発表し、中小建設業も続いて賃上げの動きが活発化しています。
賃上げを行えば新規雇用や従業員の流出防止、モチベーションアップにつながるため、企業側にとっても大きなメリットです。
業務のムダやコストのムダを省いて効率化を図るなど、見直しを実行してしっかりと利益を計上し、前向きに賃上げを検討してみてはいかがでしょうか。
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