工務店の黒字倒産とは?起こる理由や回避する対策を解説
2022.09.30
売上や利益が出ているのにもかかわらず、資金がショートしてしまう「黒字倒産」は、工務店を含む建設業に多いといわれています。
- 黒字倒産はなぜ起こる?
- 黒字倒産を未然に防ぐには?
- 黒字倒産すればどうなる?
- 黒字倒産に陥りやすい工務店とは?
など、黒字倒産についてわからないことも少なくありません。
本記事では、工務店が黒字倒産に陥る背景や原因、回避するための対策についてまとめました。
売上を上げているのに資金に不安がある工務店経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
黒字倒産とは
黒字倒産とは、帳簿上は利益があるにもかかわらず、経営破綻してしまうことです。
倒産する建設業者のおよそ半分は、黒字倒産といわれています。
倒産とは
倒産とは、一般的に法人または個人が、債務を自己資金で返済できない状態になり、経営が立ち行かなくなる状態をいいます。
法人または個人で振り出した約束手形や小切手が不渡りになり、銀行取引が停止してしまう状態がその典型です。
銀行取引が停止すると、資金繰りが絶たれるので事業継続が困難になります。
黒字倒産が起こる仕組み
工務店に黒字倒産が起こる原因として、売掛金の回収がうまくできず、資金繰りが悪化してしまうケースが考えられます。
多くの工務店では、掛けで仕入れて販売し、回収した資金でその代金を支払う「掛け取引」が主流です。
しかし、売上をあげても代金を回収できるのは数ヶ月後ということも多く、業者への支払いが厳しくなってしまいます。
その結果、資金繰りが悪化し工事完成までに発生する、さまざまな経費の支払いが困難になり、黒字倒産に陥ってしまうのです。
また、工務店では契約後に手付金を受け取りますが、全ての工事代金を回収できるのは建築物の引き渡し後になります。
建築物の完成には数ヶ月から1年と長期間に及ぶため、多くの現場を抱える工務店ほど、資金繰りが滞ってしまうという仕組みも黒字倒産に向かいやすい原因です。
倒産する工務店の割合
下図は、工務店を含む建設業の倒産件数と負債額の推移を示したグラフです。
引用元:株式会社帝国データバンク建設業の業界動向調査(2021年)
2021年の倒産件数は、政府が実施した支援策「実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資」などの効果もあって、1066件と過去最小の件数となりました。
倒産件数や負債額の推移をみても、減少傾向です。
また、TKC経営指標(建設業)によると、黒字工務店の割合は約50%と好業績。
しかし一方では、深刻な人手不足による労務費や外注費の増加、材料費の高騰などコストアップが著しく、工務店の採算悪化が懸念されています。
工務店経営が悪化する背景
昨今、工務店経営が悪化する要因として考えられるのは、下記の内容です。
- ウッドショック
- 半導体不足
- 資材不足
- 人材不足
ウッドショック
工務店が黒字倒産に陥る背景には、「ウッドショック」があります。
以前にも、1990年代の天然林保護運動や、2000年代にはインドネシアの伐採規制強化を発端とするウッドショックの危機がありましたが、昨今の主な原因はコロナ禍です。
世界規模で実施されたロックダウンなど、感染予防対策による世界経済の低迷。
また、コロナ禍での労働力不足や輸送費の高騰、コンテナ不足などを起因とする、建材不足や木材価格の高騰で、国内建設業も大きな影響を受けました。
コロナ禍を過ぎた2023年の木材価格は落ち着きを見せていますが、ウッドショック前の供給量に戻るまでには、まだ時間がかかる見込みです。
半導体不足
コロナ禍による世界的な半導体不足も、工務店経営が行き詰まる原因のひとつです。
半導体の生産工場が閉鎖し、供給が大幅に減少する一方で、テレワークの推進によってパソコンの需要が増えました。
また、工務店を含む建設業界でも、給湯器やシャワートイレ、エアコンなどの住宅設備が不足し、入手に時間がかかるなど大きな影響を受けています。
半導体需要の減少傾向は、2023年後半まで継続する見込みです。
2024年には回復に向かう予測ですが、依然として工務店経営を悪化させる要因となっています。
資材不足
コロナ禍でリモートワークが増えた影響から、アメリカやヨーロッパでは新築需要が急増、また大規模な森林火災などもあり、木材需要が大幅に高まりました。
また、中国が丸太輸入のためにコンテナを買い集めたり、ロシアによるウクライナ侵攻があったりしたこともあって資材が不足し、着工を延期する工務店も増えています。
しかし、着工を延期している期間も、人件費などの経費はかかるため、引き渡しが遅れてしまうと、資金繰りが厳しくなるのです。
このような状態では、新たな受注を得ることは難しく、経営も先細りしてしまいます。
人材不足
建設業界全体の課題である慢性的な人手不足も、工務店経営を悪化させる原因といえるでしょう。
建設業は、「きつい・汚い・危険(3K)」のイメージがいまだ強く、若者世代の人材不足が続いています。
また、経営者の高齢化や団塊世代の職人たちが、大量に退職する時期を数年後に迎えるため、今後も人材不足で経営が難しくなる工務店は増えていく予想です。
「建設業許可」を受けるための有資格者が退職し、必要な人数を確保できなければ、事業の継続自体が危ぶまれます。
黒字倒産する工務店が多い理由
黒字倒産する工務店が多い理由について解説します。
工務店の入金サイクル
工務店の入金サイクルは、一般的に以下の3つです。
- 契約時の着手金
- 中間時の中間金
- 引き渡し時の残金
工事期間が長いほど現金の回収は遅くなり、現場件数が多いほど経費がかさみ、工事内容によっては完成までに1年以上かかることも……。
全ての代金を回収できるのは、工事が完成し引き渡しが終わってからになります。
そのため、工事完成までに資金繰りが悪化し、黒字であるにもかかわらず倒産してしまう工務店が多く存在しているのです。
完成前に支払う経費が多い
完成までに支払う経費が多いことも、黒字倒産に陥る理由のひとつです。
完成前に支払う経費には、以下のものがあります。
- 材料費
- 外注費
- 現場事務所などの仮設のレンタル費
- 交通費
- 産廃処理費など
売上を回収する前に上記経費を支払うため、工務店は立て替えている状態です。
工事件数が多ければ多いほど、費用もかさむため、工務店の負担は大きくなります。
そのため、売上を出していても支払いが困難になり、黒字倒産に陥る工務店が多くあるのです。
工務店が黒字倒産した場合、建設中の工事はどうなる?
工事途中でやむなく黒字倒産に陥ってしまったら、建築中の建物や前払金などはどうなるのか。
工務店が黒字倒産をした場合の影響について解説します。
法的手続きによって対応が異なる
工務店が倒産した際、建設途中の建物はどうなるのでしょうか。
建築工事が続行されるかどうかは、法的手続きの種類によって対応が変わるのです。
別の業者が建設工事を引き継ぐのであれば、破産管財人が請負契約を解除するか、工事を完成させて請負代金を請求するか、いずれかの対応です。(破産法53条1項)
民事再生法や会社更生など再建型の法的手続きが取られた場合には、建設工事が続行されることも。
しかし、施工業者と施主双方の債務が完了していないときは、再生債務者や管財人の判断で請負契約が解除されるケースもあります。(民事再生法第49条第1項、会社更生法第61条第1項)
請負契約が解除された場合、施主が工事を継続するには、新たに施工会社を探さなければいけないため、注意が必要です。
前払金の払い戻しは?
施主が工務店と請負契約を交わす場合、契約時や着工時、完成時などに前払金を支払うことが一般的です。
工務店が倒産し請負契約が解除されたときには、破産手続きによって前払金の払い戻しが行われます。
しかし、損害賠償については、財団債権が不足している場合には、債権額の割合によって全額支払われないこともあるため注意が必要です。
民事再生法や会社更生で請負契約が解除されたとしても、施主が負った損害賠償は共益債権として優先的に弁済されます。
請負契約の解約がなく工事がそのまま継続される場合は、前払金は従来の契約通り、請負代金の一部として扱われます。
倒産した工務店で働く従業員は?
では、倒産した工務店で働く従業員はどうなるのでしょうか。
会社更生法が適用された場合、ある程度の期間は業務継続や雇用維持が可能です。
しかし、工務店が自己破産した場合には、賃金が支払われず、従業員は解雇されて失業してしまいます。
工務店側は、従業員が法律上のサポートを受けて、早急に新たな職場を見つけ、スムーズに再スタートが切れるよう対応しなければいけません。
解雇されて受け取れなかった賃金や退職金は、破産管財人に請求できますが、工務店に財産が残っていない場合は、未払いのまま破産手続きが終わってしまうこともあります。
黒字倒産に陥りやすい工務店の特徴
建設業界は他産業と比較して、黒字倒産が発生しやすい傾向があります。
では、黒字倒産に陥りやすい工務店には、どのような特徴があるのでしょうか。
目先の資金繰り表しか作成していない
黒字倒産に陥りやすい工務店の特徴として、目先の資金繰りしか把握できていない点が挙げられます。
短期的な計画では、突然大きな支払いがあった場合、資金を準備できません。
そのため、黒字倒産につながるリスクが非常に高くなります。
2、3ヶ月先の資金繰り表をまとめておけば、資金準備も早めに対策できるため、突然の資金ショートを回避できるでしょう。
入金予定が把握できていない
資金繰り表は、請け負った建設工事の収支状況を把握するために必要不可欠です。
いつ頃、どのくらいの資金が必要なのか、入金予定を視野に入れて綿密な計画を立てることが大切になります。
入金予定を把握していなければ、手元にどのくらいの現金があるのかわかりません。
建設現場が増えれば増えるほど、入出金の機会も多くなるので、正確に管理することが非常に重要です。
予実差異が大きい
工事に取り掛かる前には、あらかじめ見積を出して予算を準備しますが、実際に工事を進めていくうちに、予算と実際にかかった費用にズレが生じるのです。
それが、予実差異です。
予実差異が生じる主な原因には、以下のものが挙げられます。
- 材料の発注ミス
- 天候不良による工事延長
- 施工の段取り不足で工期が長引く
- 建築資材の追加発注
現場ごとの予実差異(予算と実績の差)が大きくなると、どのくらいの利益があるのかわからず、気づかないうちに薄利の工事を受注してしまう可能性も考えられます。
さらに、事前に組んだ予算よりも支払いが増えるため、工務店にとっては大きな負担です。
そのようなことがないように、慎重な予算管理が重要になります。
工務店の資金調達方法
黒字倒産を回避するには、資金をショートさせないことが重要です。
工務店ができる、資金調達方法を紹介します。
銀行融資
資金調達が厳しいと判断した場合には、銀行から融資を受けて資金を準備します。
黒字経営で売上も伸びていれば、融資を受けやすいのですが、資金繰り表やキャッシュフローが判断基準になるため、業績が悪化していれば融資は厳しくなるでしょう。
キャッシュフローがよくない工務店は、銀行側も融資に対して慎重になり、審査にも時間を要します。
普段から、綿密な事業計画を立てておくことが大切です。
融資を受けやすくするために、1ヶ月先の資金繰りではなく、長いスパンでみた資金繰り表の作成が求められます。
基本的に銀行はお金を融資したいと思っていますが、返済能力があると判断できない場合は融資できません。
返済計画を明確にして、銀行から信用を得ることが重要になります。
融資を受ける際は、返済計画もしっかりと整理しましょう。
ファクタリング
工務店の資金調達方法として、ファクタリングがあります。
ファクタリングとは、企業が抱えている「売掛金」を、ファクタリング会社が買い取るサービスです。
手数料は掛かりますが、銀行から融資が受けられなかった場合でも利用できます。
ファクタリングの特徴は、スピーディな現金化です。
ファクタリングは、会社や審査方法にもよりますが、即日現金化という事例もあるため、資金調達方法として期待できるサービスになります。
工務店が黒字倒産を防ぐためのポイント
黒字倒産を未然に防ぐポイントをまとめました。
長期的な資金繰り表を作成する
目先の資金繰りだけでなく、長期的な資金繰り計画の立案が大切です。
長期的な視点で資金繰り計画を立てておけば、急な支払いがあっても慌てず資金を準備できます。
資金繰り計画のチェックポイントを以下にまとめました。
- 入金はいつあるのか
- 支払いはいつあるのか
- 支払い時の貯金残高予想
- 銀行融資は間に合うのか
資金繰り表を作成した後も定期的なチェックと、予想とズレがないか常に確認し、収支状況を把握しておくことが重要です。
入金予定を把握する
入金予定は、最低でも2、3ヶ月先まで把握しておきましょう。
入金予定日に誤りなく入金されているかも、忘れずにチェックしてください。
入金予定を管理できるアプリなどで、入金予定日を登録しておくと、どの顧客が予定に対して未入金であるかをひと目で確認できます。
正確な実行予算と現場管理の実施
前述のように、工務店が黒字倒産に陥りやすい要因は、予算と実績の差異が大きくなる点です。
予実差異が生じないように、慎重かつ正確な実行予算の作成と現場管理が必要になります。
実行予算は、現場ごとの原価を想定して組まれる予算です。
現場ごとにかかる原価をあらかじめ把握できるため、実際にかかった原価との差額を確認しながら、コストを削減できます。
実行予算を作成するときには、材料費や燃料代、外注費などの経費に利益をプラスするだけでなく、項目ごとの原価を把握して利益率を確認することが大切です。
また、現場のミスで予算と実際に掛かる費用に大幅なズレがでないよう、現場管理も徹底してください。
「ミスしない」という考えだけでなく、「どうしたらムダをなくせるか」を考えて工事に着手することが重要です。
ムダを減らして、費用を削減できれば、工務店にとって大きな利益になります。
人材を確保する
離職を防ぎ、新たに人材を確保するためには、働きやすい職場環境・労働環境の整備が必要です。
慢性的な人手不足は、建設業全体が抱える深刻な課題であり、どの企業も求人には力を入れていることでしょう。
「きつい・汚い・危険(3K)」のイメージがいまだに強く、さらに最近では、「帰れない・厳しい・給料が安い(新3K)」ともいわれ、若者から敬遠されています。
それらのイメージをどう改善していくのか、さらに
- 労働時間の見直し
- 休日取得
- 資格取得支援制度
- 教育制度
などの労働環境を整備して、人材確保に努めなければいけません。
業務効率化を検討する
2024年施行の「働き方改革」では、時間外労働の上限規制が設けられているため、これまで長時間労働や休日出勤に頼っていた場合、業務遂行が困難になるかもしれません。
人手不足による業務負担を軽減するためには、従来の業務内容を見直して、業務効率化を進めることが大切です。
例えば、社内で現場状況を共有できるアプリやシステムの導入、手戻りをなくす、現場のデジタル化など、業務効率化を検討する必要があります。
まとめ
本記事では、工務店が黒字倒産に至る背景や理由、どうすれば黒字倒産のリスクを回避できるのかについて、詳しく解説しました。
工務店を含む建設業は、その独特な入金サイクルゆえに、黒字倒産に陥りやすい危険性が高い職種です。
黒字倒産のリスクを回避するためには、
- 長期的な資金繰り表の作成
- 入金予定の把握
- 正確な実行予算作成と現場管理
などの対処を検討すべきでしょう。
また、想定外の資金不足に陥った場合を想定して、ファクタリングなどの対応策を考えておくことも重要です。
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