ナレッジマネジメントとは?建設業で導入するメリットを解説
2022.05.31
近年、建設業界では慢性的な人手不足や労働者の高齢化、若年者の離職問題など、さまざまな課題を抱えています。
建設業界が抱える上記課題を解決する手法として、いまナレッジマネジメントが注目されているのです。
しかし、ナレッジマネジメントの導入方法や効果を理解していない方も多いのではないでしょうか?
- ナレッジマネジメントとは
- ナレッジマネジメントが必要な理由は
- ナレッジマネジメントの効果って
- ナレッジマネジメントシステムを導入するポイントとは
などの疑問に応えるべく、本記事ではナレッジマネジメントがなぜ建設業に求められるのか、導入した際のメリットや手法について詳しく解説しています。
人材育成や属人化を解消したい建設業者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、社員一人ひとりの経験や知識、スキルなどを企業内で共有し可視化する経営手法です。
業務や経験で培った知識やスキルは個々によって異なり、企業全体に共有されてないケースが多くあります。
しかし、企業全体に経験や知識、スキルなどを共有できれば、さらなる生産性向上や業務効率アップにつながるでしょう。
ナレッジは、「知識」や「情報」を意味します。
ナレッジマネジメントの要素
ナレッジマネジメントを構成する3つの要素について解説します。
暗黙知
暗黙知は、言葉や文章に表すことが難しく、個人が持つ「経験」や「知識」「カン」を意味します。
例えば、熟練職人の「経験」や「カン」「技術」など、工務店で共有したい情報です。
経験を積み重ねることでしか身につけられない暗黙知は、第三者に伝えることが困難で、技術を承継するうえでの課題となっています。
形式知
形式知とは、文章や図などで表現できる「知識」のことで、社員マニュアルや社内FAQなどが該当します。
形式知は、誰にでも認識ができ、客観的にとらえられる特徴があるため、「経験」や「カン」「技術」などの継承は難しくありません。
ナレッジマネジメントのポイントは、「暗黙知」を「形式知」に変換して、社員が持つ「経験」や「カン」「技術」を重要な情報源にすることです。
「経験」や「カン」「技術」を共有できれば、その知識から新たな経験や知識が生まれ、企業全体の活性化につながります。
SECI(セキ)モデル
SECI(セキ)モデルとは、暗黙知を形式知に変換し、形式知同士を掛け合わすことで新たな知識を生み出す手法です。
ナレッジマネジメントの基本的な理論として考えられています。
SECI(セキ)モデルの要素は、以下の4つです。
- 共同化(Socialization)
- 表出化(Externalization)
- 連結化(Combination)
- 内面化(Internalization)
引用元:国土技術政策総合研究所 国土交通省の事務所における知識の共有に関する研究
上記要素の頭文字をとり、SECIと呼ばれます。
1.共同化
共同化とは、個々が持つ暗黙知を体験して共感しあうプロセスになります。
言葉や文章にすることが難しい暗黙知は、同じ体験をすることが効果的です。
共同化の段階では、まだ暗黙知は形式知に変換されていません。
2.表出化
表出化は、共同化の体験で得た暗黙知を、言葉や図にして共有するプロセスになります。
例えば、現場工事で生じた個々の技術的な問題を、報告書に取りまとめるなどです。
表出化の段階で、暗黙知が形式知に変換されます。
3.連結化
連結化とは、表出化で生まれた形式知と既存の形式知を組み合わせて、新たな形式知を生み出すプロセスです。
形式知同士を組み合わせることで、体系的かつ総合的な知識を作り出します。
連結化の段階で、個々の暗黙知が企業の知識財産へと変化する。
4.内面化
内面化とは、形式知を実践し使用することで得た知識を、自身に取り込むプロセスです。
まず、連結化によって生み出した知識を、何度も繰り返し実践。
実践を繰り返して知識が身につくと、新たな暗黙知が生まれてきます。
新たに生まれた暗黙知は、再び共同化へ。
SECIモデルは、上記4つのプロセスを繰り返し、継続する手法です。
ナレッジマネジメントの考え方
ナレッジマネジメントの基本的な考え方は、暗黙知を形式知に変換し、企業全体に共有することです。
潜在している暗黙知を誰でも理解できる形にすることで、社員全員に浸透しスキルの向上が見込めます。
その結果、企業の生産性向上や業務効率の向上が可能です。
言葉や文章にすることが難しい暗黙知を、いかに表現できるかが課題です。
ナレッジマネジメントを導入する目的と効果
ナレッジマネジメントを導入する目的と効果は、以下の通りです。
- 従業員全員のスキルアップ
- 属人化の解消
- 業務の継続
- 事故の防止
- 業務効率化
順に詳しく解説します。
目的と効果①:従業員全員のスキルアップ
工務店にナレッジマネジメントを導入する目的は、従業員全員のスキルアップです。
熟練職人の「経験」や「カン」「技術」を言葉や図に表すのは本質的に難しく、工務店での共有も容易ではありません。
しかし、ナレッジマネジメントを導入することで、マニュアルを用いて手順や考え方を学べるため、職人のスキルを効率的に身につけられます。
実践的かつ専門的なスキルや知識、ノウハウを習得しやすくなるため、従業員のスキルアップや知識を強化でき、効率的な人材育成が可能です。
目的と効果②:属人化の解消
ナレッジマネジメントを導入し、スキルを共有することで属人化を解消できます。
属人化とは、「この仕事は、◯◯さんしかできない」など、特定の人にしかわからない状態を指し、以下のリスクがあります。
- 特定の業務を担当していた人がいないと仕事が進まない
- チェック体制が整わず、不正が生まれやすい
- トラブルがあってもすぐに対処できない
工務店を含む建設業は、高度な知識や技術が要求されるため、情報やスキルを共有できなければ、属人化しやすい傾向があるのです。
そのため、ナレッジマネジメントを導入して、社内でスキルを共有することで、トラブルが発生しても対処が可能になり、業務効率もアップします。
目的と効果③:業務を継承する
「職人の高齢化」や「若手の入職者が少ない」「離職率が高い」「若手が育たない」など、多くの建設業者では、慢性的な人材不足の課題を抱えています。
最も怖いのは、多くの知識やスキルを持ったベテラン職人が退職したあと、その知識とスキルを継承する人材がいないことです。
このままでは、事業の継続も危うくなるでしょう。
ナレッジマネジメントを導入すれば、ベテラン職人の知識やスキルをマニュアル化して、社内で技術を継承できます。
事業を継続するためにも、ナレッジマネジメントの導入は不可欠です。
目的と効果④:事故を防ぐ
建設業界では、現場の事故防止と作業員の安全を守るため、ナレッジマネジメントを活用してきました。
例えば、業務上のミスや失敗、労働災害事例などの情報を共有し、教訓にすることで事故を未然に防止できます。
建設業界は、墜落や転落など労働災害による死亡事故が多い業界です。
作業現場の安全を守るためにも、ナレッジマネジメントを導入しましょう。
目的と効果⑤:業務を効率化する
ナレッジマネジメントを導入して、従業員のスキルアップや属人化を解消できれば、業務の効率化が実現できます。
また、職人のスキルや知識をマニュアル化できれば、研修期間の短縮化や効率的な人材育成が可能です。
ナレッジマネジメントを成功に導く課題とポイント
建設業では、現場作業員の安全を守るため、現場でのノウハウや失敗、災害事例を共有するナレッジマネジメントが、以前から導入されてきました。
昨今では、熟練労働者の高齢化が進み、若手世代への育成が喫緊の課題となったことから、技術承継の手法としてナレッジマネジメントを活用する企業も増えています。
では、ナレッジマネジメントを成功に導くためには、どのような課題やポイントを押さえておけばいいのでしょうか。
導入目的を明確にする
ナレッジマネジメントを工務店に導入する際には、目的を明確にしておく必要があります。
導入目的が明確であるほど、従業員も共有しやすく、ナレッジマネジメントを運用して業務を進めやすくなるからです。
営業担当と施工担当では、共有する知識やスキルは異なります。
社内全体で共有したい情報や、部署ごとに共有したい情報と知識の範囲をあらかじめ明確にしてから導入することがポイントです。
例えば、
- 売上向上や生産性向上
- 個人のスキルアップ
- 顧客対応力の向上 など
その他にも、属人化して担当者がいなければ対応できない業務や、生産性にバラツキがある作業など、情報が共有できないことで起きる課題の解消などを目的にしてもいいでしょう。
目的が定まっていないと、ナレッジマネジメントを導入しても方向を見失ってしまい、結果的に時間のムダになってしまいます。
しっかりと目的を明確にしてから、ナレッジマネジメントを導入しましょう。
共有する項目を見極める
目的を明確にできたら、何を共有するか項目を決めます。
共有する項目を決める際、あれもこれも対象にしてしまうと収拾がつかないので、見極めが重要です。
自社にとってプラスになるスキルや知識を優先的に共有するナレッジを決めましょう。
対象者の選定と仕組み作り
ナレッジマネジメントを成功させるためには、しっかりとした仕組み作りが必要です。
目的と共有する項目を明確にしたあとは、誰の知識やスキルを対象とするかを決めなければなりません。
選定した対象者をプロジェクトリーダーとして、共有するナレッジをマニュアル化する仕組みを作りましょう。
動画や画像を活用する
ナレッジマネジメント最大の課題は、言葉や図に表現しにくい暗黙知(経験やカン)を誰にでも認識しやすい形式知(知識)にどう変化させるのかです。
そもそもが言葉や図に表現できない知識であるため、そのまま身につけようと努力しても、容易には理解できません。
そのため、作業日報や業務報告書、ヒアリングなどから情報をかき集めて、マニュアルを作成する必要がありました。
しかし、昨今では動画編集や画像加工が容易に行えるため、言葉や図に表せない暗黙知を視覚化して、形式知に変換しやすくなっています。
動画や画像を活用して、知識を共有する手法もナレッジマネジメントを成功に導くポイントです。
建設業に適した手法を選ぶ
ナレッジマネジメントを導入する際には、建設業に適した手法を選ぶことが大切です。
ナレッジマネジメントは大別すると、次の4種類に分けられます。
- ベストプラクティス共有型
- 専門知ネット型
- 知的資本型
- 顧客知共有型
ベストプラクティス共有型
ベストプラクティス共有型は、成功事例(ベストプラクティス)や熟練職人の知識やカン、ノウハウなどを形式知に変換して、若手世代への技術承継を目的とした手法です。
共有したい情報をマニュアル化して、情報共有ツールに蓄積することで、企業全体のスキル強化を図れます。
専門知ネット型
専門知ネット型は、高度な専門知識を持つ人や技術者をネットワークでつないで、いつでも相談できる体制を構築する手法です。
一般的には、専門家のナレッジをデータベースとして、マニュアルやFAQといった形式で活用されます。
知的資本型
知的資本型は、企業に蓄積された特許やノウハウ、知識データを集約して、経営戦略に活用する手法です。
集約された社内ナレッジを整備して有効活用することで、新たな付加価値を生み出し、収益アップを目指します。
顧客知共有型
顧客知共有型は、顧客対応履歴やアンケート結果など、さまざまな部門の顧客データを共有して、サービス改善に役立てる手法です。
過去の顧客対応や問い合わせ履歴の標準化など、データを連携して顧客サービスを改善する有効な手段として用いられます。
建設業に適した手法は、若手世代への技術承継を目的とするベストプラクティス共有型や、専門家や技術者をつないで問題を解決する専門知ネット型です。
自社に適したシステムを選ぶ
ナレッジマネジメントを効率的に活用するためには、社内WikiやFAQシステムの作成だけでなく、ナレッジの蓄積や作成に特化したシステムの導入が必要です。
ナレッジマネジメントシステムは、自社に適したシステムを選びましょう。
詳しくは次項を参考にしてください。
ナレッジマネジメントシステムを導入するポイント
ナレッジマネジメントシステムを導入する際のポイントについて、解説します。
モバイルツールに対応したシステムを選ぶ
ナレッジマネジメントシステムを導入する際には、スマホやタブレットなどのモバイルツールに対応したシステムを選ぶようにしましょう。
現場作業や直行直帰の割合が多い建設業では、パソコンでしか扱えないシステムは適していません。
モバイルツールに対応したシステムであれば、休憩時間や移動時間を活用して、現場ノウハウや情報を共有できます。
共有しやすい環境を整備する
建設業界では高齢化が進み、55歳以上の就業者は全体の約3割を占めています。
そのため、ナレッジマネジメントシステムを導入する際には、高齢者を含む社内全員が利用しやすい環境を整備することが大切です。
具体的には、以下のような現場作業者に配慮した仕組みを整備しましょう。
- フォーマットの見本を用意して、容易に現場ナレッジを共有できる
- ナレッジ共有できるテンプレートを作成し、穴埋めだけで作業が完成する
上記のようにナレッジ共有の手間をなるべく省いて、利用しやすい環境を整える工夫が必要になります。
現場の意見を聞く
前述したように、建設業界では55歳以上の高齢者の割合が多く、システムの扱いや操作に慣れていない従業員も少なくありません。
ナレッジマネジメントシステムを導入するときには、経営層だけでなく、現場で働く人の声も取り入れましょう。
社内全員が問題なく活用できるように、使いやすいシステムを選択することが大切です。
サポート体制をチェックする
ナレッジマネジメントシステムの導入前や導入後のサポート体制を確認してください。
どのようなシステムであっても、日常業務として活用が定着するまでには、大なり小なりの問題が発生します。
トラブルが起きた際に、すぐに対応してくれたり、電話やメール、チャットで質問できたりするサポート体制が整っていれば、導入後も安心です。
システムの使用方法だけでなく、ナレッジマネジメント導入に関するノウハウがあるかどうかも合わせて確認しておくといいでしょう。
まとめ
本記事では、建設業にナレッジマネジメントが必要な理由や、導入するメリットについて解説しました。
建設業は人手が少なく、業界の高齢化が進んでいる現状です。
今後もこの問題はさらに深刻になり、事業継続が厳しくなる工務店も多く出てくることでしょう。
業界での生き残りを目指すためにも、ナレッジマネジメントの導入がおすすめです。
長年の知識やスキルをもった熟練職人が現場を退けば、業界全体のスキルは下がっていきます。
しかし、ナレッジマネジメントを導入して、経験やカンをマニュアル化できれば、残った者への技術継承が可能です。
建設業界のレベルアップとスキル維持のためにも、ナレッジマネジメントは必要不可欠といえるでしょう。
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